月のいいばんでした。ごんは、ぶらぶら遊びに出かけました。中山様のおしろの下を通って、少し行くと、細い道の向こうから、だれか来るようです。話し声が聞こえます。チンチロリン、チンチロリンと、松虫が鳴いています。
ごんは、道のかた側にかくれて、じっとしていました。話し声は、だんだん近くなりました。それは、兵十と、加助(かすけ)というお百姓でした。
「そうそう、なあ、加助。」
と、兵十が言いました。
「ああん。」
「おれあ、このごろ、とても不思議なことがあるんだ。」
「何が。」
「おっかあが死んでからは、だれだか知らんが、おれにくりや松たけなんかを、毎日毎日くれるんだよ。」
「ふうん、だれが。」
「それが分からんのだよ。おれの知らんうちに置いていくんだ。」
ごんは、二人の後をつけていきました。
「ほんとかい。」
「ほんとだとも。うそと思うなら、あした見に来いよ。そのくりを見せてやるよ。」
「へえ、変なこともあるもんだなあ。」
それなり、二人はだまって歩いていきました。
加助がひょいと後ろを見ました。ごんはびくっとして、小さくなって立ち止まりました。加助は、ごんには気がつかないで、そのままさっさと歩きました。吉兵衛(きちべえ)というお百姓のうちまで来ると、二人はそこへ入っていきました。ポンポンポンポンと、木魚の音がしています。まどのしょうじに明かりが差していて、大きなぼうず頭がうつって、動いていました。ごんは、「お念仏があるんだな。」と思いながら、いどのそばにしゃがんでいました。しばらくすると、また、三人ほど人が連れ立って、吉兵衛のうちへ入っていきました。
おきょうを読む声が聞こえてきました。
(ごんの吹き出し)5
ごんは、お念仏がすむまで、いどのそばにしゃがんでいました。兵十と加助は、またいっしょに帰っていきます。ごんは、二人の話を聞こうと思って、ついていきました。兵十のかげぼうしをふみふみ行きました。
おしろの前まで来たとき、加助が言いだしました。
「さっきの話は、きっと、そりゃ、神様のしわざだぞ。」
「えっ。」
と、兵十はびっくりして、加助の顔を見ました。
「おれはあれからずっと考えていたが、どうもそりゃ、人間じゃない、神様だ。神様が、おまえがたった一人になったのをあわれに思わっしゃって、いろんな物をめぐんでくださるんだよ。」
「そうかなあ。」
「そうだとも。だから、毎日、神様にお礼を言うがいいよ。」
「うん。」(兵十の気持ち)
ごんは、「へえ、こいつはつまらないな。」と思いました。「おれがくりや松たけを持っていってやるのに、そのおれにはお礼を言わないで、神様にお礼を言うんじゃあ、おれは引き合わないなあ。」
(ごんの日記)6
その明くる日も、ごんはくりを持って、兵十のうちへ出かけました。兵十は、物置でなわをなっていました。それで、ごんは、うちのうら口から、こっそり中へ入りました。
そのとき兵十は、ふと顔を上げました。と、きつねがうちの中へ入ったではありませんか。こないだ、うなぎをぬすみやがったあのごんぎつねめが、またいたずらをしに来たな。
「ようし。」
兵十は立ち上がって、なやにかけてある火なわじゅうを取って、火薬をつめました。そして、足音をしのばせて近よって、今、戸口を出ようとするごんを、ドンとうちました。
ごんは、ばたりとたおれました。
兵十はかけよってきました。うちの中を見ると、土間にくりが固めて置いてあるのが、目につきました。
「おや。」
と、兵十はびっくりして、ごんに目を落としました。
「ごん、おまい(おまえ)だったのか、いつも、くりをくれたのは。」
ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
兵十は、ひなわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。
(ごんの日記)
(兵十のごんへの手紙)
(うたれたごんへの思い)
出典 光村図書出版株式会社「国語四下 はばたき」
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