へき地・少人数学級において豊かな読みに培う物語文の指導方法の研究

-インターネットを利用した国語環境向上の取組-

平成9年3月

厳木町立厳木小学校 教論 渡辺 顕

要旨
 国語科の物語文の学習では,読みを深めるのに児童の練り合いの活動が大切であるが,へき地・少人数の学級ではそれができない。そこでインターネットのWWWと電子メールの機能を使い,読み取った内容を交換する練り合いの場を設定し,読みの学習を行った。その結果児童の読みに広がりや深まりが見られるようになってきた。また,相手意識が生まれ学習意欲の向上という面でも効果が見られた。
 このようにインターネットを利用することでへき地・少人数学級における国語環境の向上を図ることができた。

キーワード:小学校国語,へき地・少人数,コンピュータ,インターネット
      ごんぎつね,物語文,World−Wide Web(WWW)

1 主題設定の理由

 国語科物語文の指導では、読みを練り合うことで言語による思考力や想像力が磨かれて読みが深まる。
 厳木小学校の分校の平之分校は、全校児童3名(2年生2名、3年生1名)の少人数の分校である。そのため日常の会話も簡単なことばのやりとりになることが多く、言語の思考力や想像力を磨くことが難しい。特に3年生の児童は1人で学習するために「目的や意図に応じて適切に表現することや相手の立場や考えを的確に理解すること」(1)に必要性を感じていない。本分校の児童はこのように、国語の学習環境が必ずしも恵まれているとは言えない。その解決のために、今までにも本校や他の分校の児童の考えを手紙やファクシミリで送ってもらい紹介したり、教師が児童の立場で意見を言ったりして、少しでも多くの考えに触れられるようにしてきたが、手間や即時性の点で不十分であった。
 そこで、インターネットを利用し練り合いの場を設定した学習を考えた。インターネットは、文字、音声、画像を瞬時に双方向に表示することができる。この特性を生かせば国語科の教材文やワークシートを表示し内容理解の学習をしたり意見交換をしたりすることが可能になる。少人数の学級でも、相手意識を持って自分の考えや意見を発信したり、逆に多様な考えや意見に触れたりすることが可能になれば、児童の国語の学習環境が向上し、読みを広げ深めることができるのではないかと考え、本主題を設定した。

2 研究の目標

 へき地・少人数学級の国語科物語文の学習において、読み取った内容についてホームページ(ワークショップ)上で交流しながら、自己の読みを広げ深めることができる指導の在り方を明らかにする。

3 研究の仮説

 WWW上に読み取った内容を多様に表現できるホームページ(国語のへや)を作成し、自分が読み取ったことを発信させるとともに、他校の児童と意見の交換をしながら、その読みを再考させれば、へき地・少人数学級にあっても、読みを広げ深めることができるであろう。

4 研究の実際

(1)国語科の学習における個と全体との関わりについて

 国語科の学習において、児童の読みを広げ深めるためには読みの練り合いの場が不可欠である。練り合い活動とは、自分の読みと友達の読みとを比較し、新しい読みに気付いたり自分の読みをより確かにしたりすることである。この活動を繰り返すことで児童は読みを広げ深めることができる。しかし、児童1名の本分校の学級ではこの活動ができないため友達との関わりで読みを広げ深めることはできない。

(2)国語科教育におけるインターネットの利用例

 インターネットには、WWW、電子メール、テレビ会議システム等の機能がある。その中のWWW上のホームページで情報を発信している小学校は全国で約550校(2)である。内容は学校紹介や教科の学習の成果発表で、国語科は詩や感想文の発表がほとんどである。そして、それらを見た人から電子メールで意見や感想をもらい交流へと発展する場合もあるが、積極的な意見交換を目的としたホームページは見あたらない。このように、WWWや電子メールによる情報発信や交流が現在のインターネット利用の大部分を占め、テレビ会議システムなど、動画、音声を利用した交流はまだ少ない。

(3)ホームページ「国語のへや」について

   国語のへや見取り図

ア 「国語のへや」作成の順序

@ 教科書会社、作者、挿し絵作家に教材文、挿し絵のホームページヘの転載許可を得る。
A 学習指導案、指導計画を作成し、WWW上に掲載する(図1)。
B 送られてきた読みは、加工し「送られてきた考え」のページに掲載する。

イ 「国語のへや」の利用方法

@ 全国の小学校のホームページ管理者に電子メールで参加を呼びかける。
A カリキュラムの調整と送られてきた読みを加工し掲載するために週2時間の計画で学習を進める。
B ワークシートは印刷して使用する。
C 1時間の授業終了後、電子メールで児童の書いた日記や吹き出しを交換する。
D WWW上の国語のへやを見たり、電子メールを読んだりして自分と友達の読みを比較し新しい読みに気付いたり、自分の読みをより確かにしたりしながら学習を進める。
E CDの内容を繰り返す。

(4)WWWと電子メールを使った指導の実際

資料1「国語のへや」に掲載したごんの日記の一部


WWWと電子メールを使った学習を、図3の形で取り組んだ。
@ 学習が始まるまでに送られてきた日記は全て加工して(資料1)国語のへやに掲載しておく。
A 学習の初めに国語のへやを見ながら自分の日記と友だちの日記を比較し、自分と同じ内容、違う内容を明らかにしたり、友だちのよい書き方を見つけたりして読みを深めたり自分の表現に役立てたりする。また、この活動を通してより具体的に前時を想起させる。
B 1時間の最後に日記や吹き出しを書き、学習終了後に電子メールで交換する。



図3 WWWと電子メールを使った国語学習

(5)考察

資料2 6の場面学習活動4で書いた「ごんの複雑な心境を想像したA子の日記」

ア 「読みの広がり」の一例 資料2の日記において、
下線aで前場面の二人の会話を聞いたごんの怒りと落胆の入り交じった気持ち。
下線bでうたれたことに対する無念の気持ち。
下線cで兵十と心が通じ合った喜びの気持ち。
を表現している。怒りと落胆、無念、喜びといった複雑な心境を、視点を変え、ごんに寄り添いながら、兵十への思いも込めて表現している。A子も「友達の日記をみることで書くことがうかんできた(資料3−f)」と感想を述べている。このように読みの視点が増え、読みが広がってきている。

イ 「読みの深まり」の一例

6の場面の一次感想は「いいことをしているのにうたれたごんはかわいそう。」だった。この感想は、非常に短く一言感想の域を出ていない。しかも、「うたれた(死を暗示)」=「かわいそう」とうたれたことのみに目を奪われた表面的な読みである。ごんや兵十に寄り添うわけでもなく距離を置いて読んでいる。うたれた原因となった事件のことやくり・松たけを持っていったことにも触れていない。日記を見ると、下線aは4と5の場面、下線bは1の揚面、下線cは3から5の場面とそれぞれの場面を通して感じられる兵十へのごんの気持ちを書いている。下線dは、友達の日記を参考に1の場面のいたずらの内容を想起して書いている。このように既習内容を想起し物語全体を通してごんの気持ちを読み取り日記に表現していることからも、読みが深まってきている。

ウ 学習意欲について

 文末に「コン」と書かれた日記が送られた(資料3−e)。これは、A子の中にあった書き方で友達が自分の表現を参考にしていることを知り大変喜び学習にも意欲的になった。また、日記や吹き出しがたくさんの人に見てもらえると相手意識がはたらいていた(資料3一g)。

 

資料3 6の場面学習後のA子の感想

今日は「すがたを見せたら殺される」というところを山梨県の先生に「ごんが人間と友達になりたいけれども、なれない気持ちがよく書けていました。」とほめられたのがうれしかったです。また、(e)山形県の分校のR子さんが私が前に日記で書いていたようにコンとつけていたのがうれしかったです。インターネットで国語の「ごんぎつね」を勉強してたくさんの友達の意見とかメールを見たりするのが楽しかったし、それに(f)日記を書くときに友達のを見たら書くことがたくさんうかんできたからそれも楽しかったです。(g)自分の書いた意見や日記は日本中の人にたぶん見られているかもしれないから少しきんちょうして書きました。でも、見てくれていたらすごくうれしいです。また、他の国語の勉強をインターネットでやってみたいです。

5 研究のまとめと今後の課題

(1)研究のまとめ

 国語の学習にWWWと電子メールを使い意見交換し、自分と友達の読みを比較させる活動を行った結果以下の効果があった。
 @ 新しい読みの視点に気付き、読みに広がりが出てきた。
 A 自分の読みをより確かにし、読みに深まりが出てきた。
 B たくさんの人に読んでもらえると相手意識が生まれ学習に意欲的になった。
 C 意見交換の相手の学級の児童にも読みの広がりが出てきた。
  以上のようなことから、インターネットを利用し練り合いの場を設定することで国語の学習環境の向上を図ることができた。

(2)今後の課題

インターネットを利用し、学習する中で以下の5つの点が課題として残った。
 @ 参加する学校のカリキュラムをどのように調整するか。
 A 個人情報保護の観点から参加する児童の名前をどう表示するか。
 B 1名の学級では効果があったが人数の多い学級ではどうか。
 C インターネットの他の機能を利用した指導はどうすべきか。
 D 他の領域や教科等での指導はどうすべきか。
   今後これらの課題を解決できるように研究を進めていきたい。

【引用・参考文献等】

1) 文部省 (1989) 『小学校指導書 国語編』 P・9
2) 大阪教育大学 (1997)『インターネットと教育』 WWWページ